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楽器の練習は、筋肉を鍛えているという面が全くないわけではないが、脳を鍛えている、と考えるべきだろう。
脳の中の神経細胞同士は、最初は、どちらかというといきあたりばったりに連絡する。とりあえず適当にネットワークを組む。特に新生児の脳はそうだ。
連絡した神経細胞同士の間を正しく信号が流れると、その連絡は強化される。雰囲気で言うと、信号が流れると接点から栄養剤が放出され、同じ細胞同士を連結する電線が一本発芽してきてつながり、電気が流れやすくなる。一方、信号が流れなかった連絡は枯れてしまい、除去される。こうして、使われる回線は信号が流れやすくなり、使われなかった回線は排除されることによって、脳の中に合目的的な回路が形成される。
楽器の練習で、最初はゆっくり、頭で考えながら、繰り返し練習する。こうして筋肉を動かすことで、筋肉を動かす神経細胞同士の連絡に、信号を通している。その時同時に動員されている筋肉、使われる筋肉の順番とタイミングなども、それを制御する神経細胞のネットワークがあり、そこを信号が流れる。何度も信号を通すうちに、その連絡は強化され、信号が通りやすくなり、自然に体が動くようになる。
たまたまちょっと間違えた指使いなどを放置していると、そのうち、いつもそこを間違えるようになる、という経験があるが、これはこの間違えた回路が強化されたのだ。一度間違えた箇所は何度も正しく弾いて、正しい回路を強化しておかなければならない。
脳の中では、得られるべき結果を予想していて、それと、現実に体を動かして得られた結果とを比較して、そのギャップを修正しようとしている。このギャップが非常に少なかった場合、ご褒美として、麻薬のような快感物質が脳の中で放出され、とてもよい気持ちになる。
弾けなかった箇所を克服したときに、やったー、という快感を感じるのはこれで説明できるだろう。
経験が脳を作っている。自分の脳は自分が作っている。リンカーン(だったっけ?)が、男は中年になったら自分の顔に責任を持たなければならない、と言ったらしいが、正しくは、人間、中年になったら自分の脳に責任を持たなければならない、というべきだろう。脳は、その人自身の作品なのだ。
チェロ ピアノ