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楽器の演奏に熟練した人の脳は、もちろん、そうでない人の脳と違う。今は、生きている人が何かの行動をしているときの脳を、リアルタイムで調べることが出来るようになり、いろいろ面白いことが分かるようになった。
ヒトで非常に発達している脳の部分に「大脳皮質」がある。脳の表面に面しているがしわがたくさんあって折りたたまれている。広げると新聞を広げたくらいの面積があるが、場所によって、全然違う働きを持つ。ある場所には目から入ってきた視覚情報が入ってくるし、ある場所は言葉を発する機能と関係する。何をやっているのだかわかっていない場所も多い。
この大脳皮質の一部に「運動野」という場所がある。合わせて葉書一枚くらいだろうか。ここのある一点は体のどこか一点と連絡していて、運動野の一点を電気刺激すると、それに対応する筋肉が働いて体のどこかが動く。
ヴァイオリンの演奏家は指を細かく動かすので、指とか手に対応する脳の部分は他の人より鍛えられている。当然、彼らの脳の大脳皮質の運動野では、指に対応する場所の面積が広いだろう、と思ったら、そんなことはないらしい。
この「運動野」とは別に「身体知覚野」という場所がある。ここのある一点も体のどこか一点と連絡している。皮膚のどこかを針で突いたりすると、この身体知覚野の、対応する場所の神経細胞がこれを受信し、興奮する。ここに電極をさして電流を測っていると、針が揺れる。皮膚だけでなく、関節の曲がり方の情報も、この身体知覚野の一点に入ってくるようになっている。
ヴァイオリンなどの熟練者の脳では、左手の指に対応する身体知覚野が普通の人より拡大している。このことはたぶん、左手の指の動きを監視する神経細胞が増えていることを示すだろう。
指の動きは、運動側を細かくコントロールするのではなく(小さなモーターをたくさんくっつけているのではない)、動きをモニターし、チェックする機構を発達させることで正確に制御しているのだと思う。
チェロ ピアノ