はかせさんのブログ（日記）〜クラシック音楽の総合コミュニティサイト Muse〜

　弦楽器はいろいろとメインテナンスが必要だ。

　何も構わない人も多いが、弓の毛は定期的に交換しないと、伸びてしまったり、キューティクルがつるつるになってしまったりする。
　弦は切れることもあるし、切れなくても古くなると音色がコントロールできなくなるので交換する。これは通信販売で買って、自分で交換することができるが、ショップにやってもらう人もいる。チェロの弦を張るのは慣れないと怖いものである。

　楽器本体は木でできたパーツをノリで貼り合わせて作ったものだから、あちこち狂う。弦の張力が楽器全体を縦に縮める方向に働いているので、胴体は短くなろうとし、真ん中は膨らもうとする。ネックが引っ張られるので、指板（弦の下にある黒い板）は下がって表板に近づこうとする。また、指板は弦に削られて溝が掘れる。
　胴体の中に魂柱という細い木の棒が、表板と裏板に挟まれて立っているが、これは糊付けされていないので、何かの拍子に動く。下手すれば倒れる。
　調弦で弦を引っ張るので、これと表板に挟まれている駒は引っ張られて動き、曲がる。調弦の頻度、アジャスタの有無は弦によって違うので、自然に駒はねじれてくる。
　湿度の変化、温度の変化によって、ノリが割れ、接着部分がはがれてくる。

　そういうわけで、定期的に腕の良い職人のいるショップに行って点検してもらう。何も悪いところはない、と思っていても、見る人が見ると狂いはあるもので、修正してもらうとぐっと弾きやすくなることが多い。
　こういう職人はだいたい、楽器製作者でもあり、自分の腕に誇りと自信を持っている。職人によって信じることが違うので、仕上がりがわずかに違う。
　私は弓の毛の交換を３０年以上、一人の職人に任せてきた。２度、別の人にやってもらったことがあるが、仕上がりが気に入らず、すぐに、いつもの職人にやり直してもらう羽目になった。
　魂柱をどこに立てるか、も職人によって違う。よそで面倒を見てもらっている楽器を見せると、たいてい、その魂柱の立て方に難癖をつける。正解は一つでは無いようだ。

　高校生の時からずっと通っていたショップは、腕の良い職人が社長で、何人かの弟子を使って店をやっていた。当時はこういうショップが東京にも少なく、知り合いになったヴァイオリン奏者たちもみんなこの店に世話になっていた。この店で世界的に活躍するプレイヤーによく会った。
　今は日本中に弦楽器製作者が増えた。日本人でドイツで修行してきた人が弦楽器製作学校を作ったので、その卒業生が毎年出るし、外国で修行した人が帰国してショップを開くことも多い。
　こういうショップは職人が一人社長、せいぜい奥さんが手伝っている、という形態が多い。従業員を雇ってしまうと、その給料を払えるだけの利潤を出す必要が出て、商売が大変になるのだろう。
　
　彼らはもちろん、自分が作った楽器を売って生計を立てたいのだろうが、現実には修理、調整で食べているのではないだろうか。
　一般的に言って、地味に町の修理屋風の店であっても、ちゃんと修行してきた職人なら、彼らの作る楽器は水準が高い。ある程度楽器を評価できる人なら、彼らの楽器からお買い得の楽器を探せると思う。

　チェロ　ヴァイオリン（バイオリン）