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日系サイエンスという雑誌を毎号読んでいる。これの2006年11月号に「チェス名人に隠された才能の秘密:原題The expert mind」という記事があった。
いったいどうやって、達人たちはたぐいまれな技能を身につけるのだろうか?持って生まれた才能と集中的なトレーニング、そのどちらがより重要なのか?という問いは心理学、脳研究の重要な問題の一つだ。もちろん、音楽の天才についても研究されているが、音楽の場合、定量しにくいし、二人の音楽家のうちどちらが上か、ということを判断する基準が確立されていないし、そういう判定を拒みたくなる雰囲気がある。
そこで、よく研究対象に選ばれるのがチェスだ。「チェスは認知科学のショウジョウバエ」と言われるくらいなのだ。チェス人口は世界的に多く、これまでの対戦をもとに「レーティング(格付け)」が点数で与えられる。強い相手に勝利すると点数がたくさん増えるが、下手相手に勝っても点数は増えない。レーティングに200点の差があると、勝つ確率が75%ある。最高位のチェス名人のレーティングが2812点で、対戦相手のレーティングが2616点だとすると、名人は75%の確率で勝つと予想できる。こうして、チェスの技量が数値化できるので、名人の頭の中の動きと普通のチェスプレイヤーのそれとを比較して、脳の働き方の違いを分析するのだ。
同じようにレーティングがあるのが、トランプゲームの「ブリッジ」だ。昔よくやって遊んだが、これも明確に強い弱いがある。たぶん、麻雀もそうだろう。
チェス名人の脳研究の成果は音楽の名人の脳の働き方の研究とよく一致するので、面白い。
同時に何十人とチェスの対戦を行い、全部勝ってしまう名人に、「何手先まで読んでいるのか?」と質問したところ、「一手先まで。ただし、その手はいつも必ず正しい」という答えだった。素人とプロとを比較すると、プロの方が分析力と多くの可能性を思いつく力は上だが、普通のプロと名人とではあまり差がないらしい。名人は多くの差し手を検討しているのではなく、少数の可能性の中からより適切な手を検討しているらしい。
これは一流演奏家もそうだ。彼らはある部分をどう演奏するか、を考えるとき、正しくない選択肢を考慮することはない。思いつくのはすべて正解の範囲内にあり、その中でより良い選択肢を選ぼうとしているようだ。素人はとんでもない弾き方でも「こういう弾き方もあり得るかもしれない」などと考えたりする。
チェスの盤面を10秒ほど見て、それを再現できるか?という実験で、ゲームの実力(レーティング)と記憶の正確さに強い相関があったが、むちゃくちゃに駒を並べた盤面で同じ実験をすると一挙に相関が無くなる。つまり、無意味な盤面は名人でも覚えられない。ゲーム中の盤面なら、そこに至った過程を名人は容易に推量できて覚えられるのだろう。また、ここがこうなっていると、あそこはこうなっているに違いない、といったブロックが頭に入っていることも大きいだろう。
一流の音楽家が、一度聴いた曲をほぼ完全に再現できる場面をよく見るが、これもおそらく同じで、ランダムな音の羅列だと再現できないのではないだろうか。
チェスの名人がチェスを指している時の脳の働きを分析してみると、長期記憶を活動させている割合が多いのに対して、普通の差し手は新しく考える割合が多い。パターンを読み出しているのだろう。
音楽の演奏でも、初心者はいろいろなことを同時に考えながら演奏するが、上級者は実際に意識に上っていることはわずかなようだ。
チェスにせよ音楽にせよサッカーにせよ、頭の中にそれ用の構造を築くには大きな努力と時間が必要である。だいたい10年くらいの一生懸命がんばった時間が必要とされている。しかも、重要なのは経験でなく、「努力を要する訓練」らしい。その人の能力をわずかに超えたところでチャレンジを繰り返すことが必要だ。上達してもなお、努力を要する訓練をしなければならない。凡人はある上達に達すると満足し、あとはモチベーションが下がるが、名人になる人はそこまで行ってもまだ、上を目指して努力を要する訓練を続ける。
才能とは努力できることだ、とバレンボイムが言っていたっけ。
では、なぜ彼らがそうやって上を目指して努力を要する訓練を続けられるかと言えば、成功体験だろう。プロサッカー選手の多くはクラブに入団した段階で体が大きかった、日本で言えば4月から7月に生まれている人が多い。体格、体力がまさっていて始めたばかりの時有利だったのだ。
モーツァルトのように小さいときにちやほやされると、その成功体験が強いモチベーションになったのだろう。
圧倒的多数の心理学研究が、達人はつくられるものであって生まれつきではないことを示している。さらに、チェスや音楽をはじめ多くの分野で、子供を短時間で(10年ほどはかかるが)エキスパートに育てられることが実証されている。アマデウスは生まれつきの天才だったわけではなく、レオポルドが作り出したといえるのだろう。
チェロ ピアノ