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そろそろと「嘆きの歌」(上)

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自己探求の意味合いもこめて、久しぶりにマーラーのことを書いてみようと思う。

今回は、一つの方向性を定めて、話をまとめるということが困難であると思えるので、
私の興味を頼りに様々な話題を提供するにとどめます。
様々な素材の中から一つの物語のようなものを紡ぎだす…
それがこの作曲家の音楽の楽しみ方の一つであるとも思えるので、純粋な楽曲理解とはほどんど関係がありません。その点は、まずお断りしておきます。


私が交響曲第1番を初めて聴いたのは、もう10年以上も前にさかのぼる。
音楽史上に名を残した(小中学校の授業でも教えられるという程度の)作曲家の音楽は、大方すでに耳にしていて、もう何を聴いてもとくに驚くことはないと思っていた私だけれど、
この曲の「わけの分からなさ」には、曲の始まりからして戸惑いを感じた。

およそ100年くらい前に、作曲家が当時の自分と同じくらいの年齢の時に
作った曲だとはとても思えず、動揺するほどに恐れを感じたのだった。
標題性の強い、交響曲というよりは交響詩のような作品であるにも関わらず、何を表現したいのかは本当のところ分からないし、
粘り強く聴いてみたところで、ふざけているのか真剣なのか見当もつかない。


そこでまず、一つ目に挙げたいキーワードは、
「二面性から多面性へ」という見方。


古典派の時代に完成させられたソナタ形式という楽式には、2つの対照的な主題がまず提示されて、この性格的に相反する主題を軸に、
音楽が論理的にあるいは自由に展開されていくという典型がある。

書法の上での多様さはひとまず抜きにして、この形式に慣れきってしまうと、
緊張を味わうのと同時に大きな安心、安定感が得られるものと思う。
それは、重厚なベートーヴェンの交響曲ですらそうである。
けれども、「二つの主題を軸にして」というところに、
多様な価値観を認めようとする現代においては、実は大きな危うさが潜んではいないだろうか…。


私は、マーラーの名前だけは音楽を聴くよりも先にだいぶ前から知っていた。
20世紀の世紀末へと向かう頃に自身が生を受け、
10代が終わりを迎える頃には、この国では経済状況が激変し、世の中が混沌とし始めていた。

20代になってから、今でもその真のありようを理解したわけではないけれど、
100年前の19世紀末の中でもウィーンという限られた、特殊な場所での文化というものに強く惹かれるものがあって、その興味は、ミュシャの絵に始まり、アール・ヌーヴォーのデザイン、フロイトの精神分析、
そしてマーラーの音楽へと行き着いた。

面白いのは、ミュシャ、フロイト、マーラーの三人について共通するのは、生まれはみな現在のチェコ。
その後、幼年期や青年期に入ってからウィーンへ移り住み、壮年期を過ぎてからウィーンをやがて離れている
ということ。
そしていずれも、美術の世界、精神医学の世界、音楽の世界において伝統から受ける桎梏を乗り越えて、革新的な試みをしたということ。

乱暴に言ってしまえば、西洋文明はこの頃、行き詰っていたのだと思う。

そして彼らは、フロイトが無意識の世界について概念化を試みたように、
魂の世界の「さすらい人」であったのだろう。
近代の合理主義精神からは退廃的とも捉えられてしまうけれど、一部の人々からは熱狂的に迎えられる。

やがて二度の大戦の時代が終わり、豊かさが広がりを見せ始めた時と歩みを合わせて、その表現の多様さが再評価をされるというわけだ。

 作曲家 交響曲 ヴァイオリン(バイオリン) チェロ 室内楽


日付:2012年04月21日

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