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東山魁夷とモーツァルト

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 市川の東山魁夷記念館の「大和春秋」展に行ってきた。3年ほど前に開館したらしいヨーロッパ調の立派な建物である。2階建てで、1階は、魁夷さんの生い立ちから日本画家として成長するまでの経歴を写真と資料で詳しく紹介している。2階に、市川市に残された40点ほどの作品(大部分は長野市にあるらしい)を展示し、その幾つかを係員が来客に静かに解説していた・・・。

 1階に居たときから妙に、気になっていたのが館内に小さく流れているモーツァルトのP協奏曲である。20番台のどれかである・・・。
 展示会の作品解説の冊子を買ったついでに、思い切って、係員に聞いてみた。『何の曲ですかね。理由があるのですか』と。
 「大ありである。」東山魁夷さんは、大のモーツァルト好きで、代表作のひとつとして人気のある≪緑響く≫は、神童のP協奏曲23番の第2楽章を聞いているうちに、絵の題材となった「森と湖と一頭の白馬」の心象風景が浮かんできたのであるとか・・・。
 画集に曰く、
『 その年の描く何点かの作品の構想を漠然と考えている時,ふとモーツァルトのピアノ協奏曲イ短調(K.488)の第2楽章の旋律が浮かんできた。

 嬰ハ短調八分の六拍子で書かれたこの楽章は,穏やかで控えめな主題が,まずピアノの独創で奏でられる。心の奥底に揺らぐ影を訪ね求めてゆくような低いモノローグが伝わってくる。

 深い奥底から立ち昇る嘆きとも,祈りとも感じられる。オーケストラが慰めるかのように応える。主題がピアノの独創で変奏されると,フルートファゴットが加わり,優しく語らいを交す。ふたたび主題の独奏とオーケストラの応答−やがて弦楽器のピチカートに伴奏されて,ピアノは静かに旋律を繰り返しつつ,消え去ってゆく。

 すると思いがけなく一頭の白い馬が,針葉樹の繁り合う青緑色の湖畔の風景のなかに小さく姿を現し,右から左へと,その画面を横切って姿を消した。

 私はこの幻想から一枚の構図をつくった。』と。

 画集は3千円以上したので、その場でぱらぱらとめくり、「薫りだけ」を味わせて頂くことにした。そして、もう一度展示室に戻り、館内を繰り返し流れている「K.488の第二楽章」に耳を澄ました。
 『オケが厚いなー、P独奏は控えめの感じがする』

 「フム?」というので、自宅に帰って普段聞きなれているぺライアの演奏を聴きなおしてみた。「大分印象が違うよなー」、画集に載っていた東山さんの文章も、曲の解説としては「結構細かく、玄人ぽい内容」で、よほどの神童通の書き方である。

 ペライアの全集には、吉田秀和さんが解説文を寄せている。久しぶりに読み返してみると、これが東山先生の画集の回想文にそっくり!

 「まあ、いいではないか。吉田さんの解説に倣っていれば、文句が出てくるはずがない」
 しかし、館内を流れているP協奏曲の演奏は、ペライアのものとは大分趣きを異にする。オーケストラ用にアレンジされた「渋みと深み」のある演奏と感じられた。

 また、この曲に流れている「心象風景」なるものは、東山先生とモーツァルト自身のものとは、異なるかも知れない。東山魁夷さんは、「大作を終えた後の、安堵感・解放感が漂う緑の風景と水辺に憩う一頭の白馬は自分のそうした姿を映している」と館内のビデオ映像解説の中で語っていた。
 
 ところが、吉田さんの解説を読み返すと、この作品が演奏された時期は、『フィガロの結婚』の作曲時期と重なっているようである。つまり、さしもの神童もウィーンでの人気の凋落が明らかになってきた時期の作品なのである。だから、曲想に「深い陰り」が入りこんでいる。簡単に言えば「もはや死の影が近づいている」作品と言えなくもない。これを「安堵感」というべきか?

 東山魁夷先生が、どれほどモーツァルトの作品を愛しておれたかは定かでないが、かの社会学者丸山貞男さんほどの「目利き・耳利き」ではなかったことは確かであろう。

 作曲家 チェロ


日付:2009年11月28日

2件のコメント

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このブログ(日記)へのコメント

Az猫ロメ

「絵と音楽」というテーマはありそうで、あまり知られていないね。盲点かな。
 東山魁夷さんは市川に自宅があったのか、市川には結構、有名な作家・芸術家達が住んでいたようだ。東山先生もそうした「知識人」に囲まれて居ただろうから、自然に、神童の音楽に親しむ機会あったのだろうね。
 ただ、プロの音楽家も「タジタジとなる」丸山貞男教授と比べるのは、いささか酷ではないのかな。

2009年11月30日 09時24分53秒

アクセスありがとうございます

機会ありましたら大野廣子さんという日本画家を調べてみてください

素晴らしいですよ

さなぎファインアーツで今も展示やっているのかな??

2010年05月14日 22時37分14秒

2件のコメント

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