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R.シュトラウス:アルプス交響曲 名盤:曲の分割による解析表情とテンポの変化解析、指揮者の解釈 8
5. 主な指揮者の全曲通したテンポの変化と解釈の関係
以上記載の6人の指揮者の中からテンポの変化と解釈との間に特徴的な関係が認められる演奏を全楽章を通して記載した。
5.1 ムラヴィンスキーと朝比奈 図1
ムラヴィンスキーと朝比奈隆は、テンポに関して共通点が多い。全体的にテンポが遅いこと、テンポの変化が大きい点、加えて楽曲内容として登山者の情感が加わる箇所において共通してテンポを大きく変化をさせている点などが挙げられる。
例えば、「深い繁み」、「山の牧場」、「頂上」での感謝の情感、「霧」-「太陽の翳り」の不安感、「終末」での回顧での感謝の念など。
しかし、演奏を聴く限りでは、両演の表情はまるで異なる。ムラヴィンスキーのアルプスの威容を表現する箇所では、エッジの効いた鋭い響き、対して朝比奈は特に視覚的に感じられる壮大な楽曲は分厚く大きく壮大に表現(例:日の出、氷河、頂上景観での絶景)。また、状況・情感がかかわる箇所では、ムラヴィンスキーは壮大なアルプス自然と対峙している様に感じる箇所がある。最も印象的な箇所は、「霧」-「太陽の翳り」の不安から不穏な表現、「哀歌」の暗い過去の回想、「日没」の意味深長な儚さ。これらにアルプスに対する表現の鋭さはとても壮大な自然そのものではなく、自由な表現を許さない政権を意味しているのではないか、この政権にムラヴィンスキーの反骨精神が対峙している様にも感じる。氷河の後の危険な瞬間も、彼の反骨精神が潰されそうになった瞬間を表現しているのかもしれない。
一方、朝比奈の表現は、雄大なアルプスの中に入ると、多様性に富み、多くの危険とも遭遇しつつ達成した満足感と多くの経験知を与えてくれた感謝の念にあふれている。全体として、朝比奈の遅いテンポによる大きな表現と遅いテンポで情感をじっくりと表現する懐の深い愛情がこの曲と非常に上手く絡み合って相乗効果として発揮しているように感じられる。
5.2 ティーレマンとハーディング 図2
現役世代の二人をあげたが、両者とも登山者の状況・情感表現を重視している。具体的には、
「登り道」での意気込み、氷河での危機的高揚、登頂での満足感(Ob)、
頂上での感謝の情感、哀歌の表現、終末の回想での深まる情感など。加えて、アルプスの自然描写でも、ティーレマンは力強くより壮大に表現、ハーディングは、ソリスト的奏者などによる生命力が感じられる表現で両者とも素晴らしい。
以上、アルプスの自然と登山者の状況・情感、両者ともバランスのとれた表現が素晴らしい。
ただし、ティーレマンはオケとの関係において、自身の解釈を表現としてもう一段完成度をあげて、一貫した緻密さが欲しいように感じた。
一方、ハーディングは解釈上何となくもう一段の工夫が必要かもしれないが、各パートの感情のこもった表現が素晴らしく、聴いていて心に引き込まれる。この演奏の方が個人的には感動した。この演奏時のハーディングは37歳、この演奏の7年後(2019年)に指揮活動を休止し、パイロットを目指しているとの事、誠に残念である。
5.3 ケンペとカラヤン 図3
この二人の解釈はかなり異なるが、一般的にはこの曲において人気を二分しているように思われるので、二人の解釈の内容を客観的なデータとして相対テンポの変化に基づいて比較する。
4.3で記載のように、ケンペの演奏は、アルプスの自然は多彩な表情を遺憾なく発揮した表現、登山者の状況・情感表現はしつこくはならない程度でかつ表情は十分に表現されている。結果として、アルプスの自然と登山者の状況・情感の両者の表現が極めて良好なバランスを保っている。かつ、サウンド面も各パートバランスよく極めて緻密で豊かに響く。以上、ここでの主要3分類すべての要素がそろった名演である。
一方、カラヤンはアルプスの威容を誇る自然を表現した楽曲(日の出,登り道,滝,氷河,頂上-景観,嵐,日没)では、テンポを落として、その威容を一層大きく強調するように表現。一方でその他の箇所はあまり目立たないように弱く、滑らかに速いテンポで表現している箇所が結構認められる。具体的には、Tr9の抒情的表現、山の牧場の長閑さ、頂上でのObの表現、経過句的な夜など、弱すぎて楽曲の内容が分かり辛い箇所もある。すなわち、強弱やメリハリが明確で、焦点はあくまでも威容を誇るアルプスの自然に絞っている。ただし、第2部の哀歌の箇所では、情感的表現にも表情豊かに表現して、全体的な流れやメリハリの面からみた解釈の工夫も認められる。この演奏は、カラヤンの通常の解釈の特徴に情感面の表現も加えて、全盛期の解釈内容の中にあって、解釈面で一段高められた名演と言えるだろう。
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交響曲 指揮者